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【レポート】プロバイダ責任制限法改正に関する勉強会

2022年10月1日にプロバイダ責任制限法(特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限及び発信者情報の開示に関する法律)が改正されます。

これまで誹謗中傷などをした発信者を特定するためには、2回の裁判手続きが必要とされていたところ、1回の裁判手続きで行うことも可能になります。
これによって、発信者の特定の手続きが迅速になり、また、手続きにかかる弁護士費用も下がることで、誹謗中傷などに悩むクリエイターが救済されやすくなるとともに、誹謗中傷などが放置されず、きちんと手続きがとられることにより、誹謗中傷自体も減っていくことが期待されます。

施行日が近づいてきたことから、クリエイターエコノミー協会では総務省の消費者行政第二課の山根様をお招きし、プロバイダ責任制限法の改正の概要について研修をしていただきました。

32名の会員が参加し、質疑応答も積極的に行われ、大変盛り上がりました。

総務省総合通信基盤局電気通信事業部消費者行政第二課 専門職 山根祐輔さん

1 改正の目的

改正の目的は、インターネット上の誹謗中傷などによる権利侵害についてより円滑に被害者救済を図ることになります。

2 改正のポイント

改正のポイントは大きく2つあります。

(1) 新たな裁判手続の創設
1つ目は新たな裁判手続の創設です。
これまでは、発信者の特定のためには、異なる裁判体による2回の裁判手続(サイト管理者に対する開示請求でIPアドレス等の開示を受けたうえで、接続事業者に対してIPアドレス等をもとに氏名・住所の開示請求をすること)が必要でした。
改正後は、これまでの手続きに「加えて」、発信者の特定を「1つの手続き」で行うことも可能になります。

※サイト管理者:SNS等、コンテンツを提供するプラットフォーム等を運営する事業者等
 接続事業者:インターネット接続業者や携帯電話事業者等

(2) 開示請求範囲の見直し 
2つ目は開示請求できる範囲の見直しです。
これまでは、SNS等では、「投稿時」の通信記録が保存されていないことがあり、「ログイン時」の情報の開示が必要でした。ログイン時の情報を開示できるかどうかについては、裁判例もわかれていました。
改正後は、開示請求の範囲を見直し、投稿時の通信記録が保存されていない場合等、一定の場合には、ログイン時の情報の開示も行われるように開示請求の範囲が見直されます。

(3)その他の主要な改正事項
その他の主要な改正事項としては、以下のものがあります。

①意見聴取事項の追加(新法第6条第1項)
開示請求を受けたサイト管理者や接続事業者が発信者に対して行う意見照会において、発信者が開示に応じない旨の意見を述べる場合には、「その理由」も併せて照会することが義務となります。

②発信者に対する通知義務(新法第6条第2項)
裁判で、サイト管理者や接続事業者が開示命令を受けたときは、発信者と連絡がとれない等の場合を除き、意見照会において開示の請求に応じるべきでない旨の意見を述べた発信者に対し、開示命令を受けた旨を通知することが義務となります。

③提供命令により発信者情報の提供を受けた開示関係役務提供者の濫用禁止義務(新法第6条第3項)
提供命令によって発信者情報の提供を受けた接続事業者に対して、当該情報を、「その保有する発信者情報を特定する目的」以外の用途で使用してはならないものとされます。

3 新たな裁判手続きについて

(1)現行の手続きと新たな裁判手続きの違い
現行の手続きと新たな裁判手続きの違いは以下の図のとおりです。

現行の手続(仮処分+訴訟)
 新たな裁判手続(非訟)

(2)新たな制度の導入
また、1つの手続きで発信者の情報を開示することを可能とするため、裁判所が以下の3つの命令をすることができるようになります。

①開示命令(新法第8条)
発信者情報開示に係る審理を簡易迅速に行うことができるようにするため、(従来の訴訟手続に加えて)決定手続により、サイト管理者に対して、その保有する発信者情報の開示を命ずることができます。

②提供命令(新法第15条)
これまでの二段階の裁判手続に係る課題(ⅰサイト管理者との裁判中に接続事業者が保有する発信者情報が消去されることがある。ⅱ同種の審理を二回行う必要がある。)に対応するため、サイト管理者に対する、以下の命令をすることができます。
i.サイト管理者が保有する発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)により特定される接続事業者の名称等の情報 (名称等を特定するために必要な情報を保有していない場合や特定できない場合はその旨)を申立人に提供する
※ whois による検索などを想定。
ii.サイト管理者が、申立人から、ⅰの接続事業者に開示命令を申し立てた旨の通知を受けた場合、保有する発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)を接続事業者に提供する。

③消去禁止命令(新法第16条)
開示命令事件の審理中に発信者情報が消去されることを防ぐため、開示命令の申立てに係る事件(異議の訴えが提起された場合にはその訴訟)が終了するまでの間、その保有する発信者情報の消去禁止を命ずることができます。

(3)審理方法
これらの命令のうち、開示命令は、必ず審問または書面照会等をする必要があり、提供命令と消去禁止命令は、任意で審問または書面照会等をするものとされています。

(4)提供命令の提供方法
提供命令の提供方法としては、電子メール、記録媒体の交付、ストレージ等の利用が想定されています。

(5)具体的な流れ
具体的な流れとしては、接続事業者が1社の場合、以下のようなものが想定されています。
登場人物は、申立人=被害者、裁判所、サイト管理者、接続事業者、発信者です。

①サイト管理者に対する、発信者情報の開示命令・接続事業者の名称等の情報の提供命令の申立て
ⅰ申立人が裁判所に対し、サイト管理者に対する開示命令・提供命令を申し立てる
ⅱ裁判所がサイト管理者に申立書の写しを送付する
ⅲサイト管理者が発信者に意見照会を行う

②サイト管理者に対する提供命令
ⅰ裁判所がサイト管理者に対し、接続事業者名を特定するよう提供命令を発令する
ⅱサイト管理者が、申立人に対し、接続事業者名を提供する

③接続事業者に対する発信者情報の開示命令の申し立て
ⅰ申立人が裁判所に対し、接続事業者に対する開示命令を裁判所に申し立てる
ⅱ裁判所が接続事業者に申立書の写しを送付する
ⅲ申立人がサイト管理者に対して、接続事業者に対して開示命令の申し立てをしたことを通知する
ⅳサイト管理者は接続事業者に対して発信者情報(IPアドレス・タイムスタンプ等)を提供する
ⅴ接続事業者が発信者情報(氏名・住所)を特定して発信者に意見照会をする

④接続事業者に対する消去禁止命令の申し立て
ⅰ申立人が接続事業者に対して発信者情報の消去禁止を申し立てる
ⅱ裁判所が接続事業者に対し、消去禁止命令を発令する
ⅲ接続事業者が発信者情報(氏名・住所)を保全する

⑤発信者情報の開示命令
裁判所がサイト管理者・接続事業者に対して、発信者情報開示を命じる。
 
(6)異議の訴え・即時抗告
不開示決定を受けた申立人や開示決定を受けたサイト管理者、接続事業者は、決定に不服がある場合、異議の訴えをすることができます。
サイト管理者や接続事業者が提供命令や消去禁止命令に不服がある場合は、即時抗告をすることができます。

4 その他関連する法令の改正

①民事訴訟法等の一部を改正する法律(令和4年法律48号)
※改正民訴法において新設される、社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある場合(DV被害等を想定)における「当事者に対する住所、氏名等の秘匿」の制度を発信者情報開示命令事件においても利用できるようにするものです。
施行日は、公布の日(令和4年5月25日)から起算して9月を超えない範囲内において政令で定める日とされており、現在は具体的な日にちまでは決まっていません。

②性をめぐる個人の尊厳が重んぜられる社会の形成に資するために性行為映像制作物への出演に係る被害の防止を図り及び出演者の救済に資するための出演契約等に関する特則等に関する法律
第16条において、プロバイダ責任制限法第3条第2項の削除等の措置を行ったプロバイダの免責の特例が定められており、削除の申し出があった場合の同意照会期間が「7日から2日」に短縮されます。
(令和4年6月23日施行)

5 改正に関する情報提供

なお、今後、総務省HPにおいて改正法の情報提供がされるとのことです。
また、プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会においてプロバイダ責任制限法発信者情報開示関係ガイドラインの意見募集もなされ(募集は終了)、今後ガイドラインの改訂も予定されています。

2022年3月に、政府から、日本で事業を行う海外のIT会社に対し、日本国内における登記手続きの要請がなされ、多くの会社が登記手続きを行い、登記手続きをしない会社には、2022年6月に過料の制裁を科すべきとの通知が裁判所に対してなされています。

これまで、海外のサイト管理者に対する開示請求では、海外の登記を取得するなど、多額の費用がかかっていましたが、これによっても、発信者を特定する費用が軽減され、クリエイターに対する誹謗中傷などの被害が救済されやすくなることが見込まれています。

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