見出し画像

イベントレポート 誹謗中傷対策フォーラム「クリエイター視点で考える、誹謗中傷を減らすために今、産官学民でできること」

2023年12月7日に、誹謗中傷対策フォーラム「クリエイター視点で考える、誹謗中傷を減らすために今、産官学民でできること」を実施しました。


開催概要

日時:2023年12月7日(木)16:00~18:30
開催形式:ハイブリッド(砂防会館別館三階会議室「立山」とYouTubeライブ配信)
主催:一般社団法人クリエイターエコノミー協会
後援:総務省、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター、YouTube (Google)
運営:株式会社PoliPoli

講演:誹謗中傷の実態と適切な対策

山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授

誹謗中傷を受けたことがあると答えたクリエイターが25%にのぼるなど、クリエイターが誹謗中傷を受けやすい実態や、誹謗中傷を受けてしまった後の対処として、アバターへの誹謗中傷に対して、①発信者情報開示命令が出された事例や②300万円以上で示談が成立した事例などが紹介されました。

出典:三菱UFJリサーチ&コンサルティング「国内クリエイターエコノミーに関する調査結果

また、インターネットでは、ごく少数の人が大量のアカウントを作って、投稿を繰り返すことで世論形成をしていることや、インターネットには能動的な発信しかないため、極端な意見が目立つ構造があることなどが示されました。

2022年の侮辱罪の厳罰化やプロバイダ責任制限法改正などの対策により、クリエイターは誹謗中傷への対処が容易になる一方で、極端な厳罰化や匿名の攻撃者を特定する方法の簡略化を行った場合、表現が委縮したり、そうした手段を濫用するスラップ訴訟(嫌がらせ目的で、法律上認められないことが明らかな訴訟提起をすること)の問題などもあり、匿名での正当な発信が阻害される問題意識もあわせて示されました。

そして、今後、誹謗中傷対策をしていくにあたって以下の3点などが指摘されました。

  1. クリエイターの誹謗中傷被害の実態を定性的・定量的に把握したうえで、エビデンスベースでの対策が重要であること

  2. プラットフォーム事業者が日本ローカルでの透明性や、さまざまな創意工夫をこらした機能の実装をしていくことが求められること

  3. 誹謗中傷をしている人は、それが誹謗中傷であるとそもそも気づいていないこともあり、YouTubeの「#ちょっとまって ⏸️ 投稿前に、想像してみよう。」のような、影響力のあるクリエイターと連携した啓発活動を行うなど、自分ごと化でき、マスに届くようなキャンペーンも重要であること

出典:一般社団法人クリエイターエコノミ―協会「クリエイター向け誹謗中傷に関するアンケート2023」

最後に、私たちにできることとして、「他者を尊重すること」が重要であり、これがあれば、そもそも誹謗中傷に至らないはずであること、そして誹謗中傷はインターネットができる前からあったものであり、誹謗中傷対策検討会のように、各ステークホルダー間が連携することの重要性について語り、締めくくりました。 

パネルディスカッション【現場・当事者の視点】:クリエイターからみた誹謗中傷の実態と、その予防・事後対策について考える

ファシリテーター 山口真一 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター 准教授
ANYCOLOR株式会社
カバー株式会社
UUUM株式会社
佐々木あさひ UUUM株式会社 所属クリエイター

現場から見た現状

UUUM株式会社から、ここ数年で、クリエイターが誹謗中傷を受けることに対して、事務所がクリエイターとともに事前・事後に適切な対策をとっていかなければという危機感が根付いたとのお話がありました。同事務所に所属する佐々木あさひさんは、プラットフォーム側が誹謗中傷対策をしてくれるようになって、誹謗中傷を目にする機会が多少減ってはいるものの、周りを見ているとまだまだ溢れているように感じると指摘しました。

事務所関係者ができる事前対策

以下のような事前対策が例として示されました。

  1. 独自のフォームを作って、証拠を添付する形での通報方法を案内することで、誹謗中傷をしてしまう人にリスクを理解してもらったり、誹謗中傷はよくないと感じてもらい、誹謗中傷しにくい空気をつくる

  2. モデレーターがライブ配信中の誹謗中傷に対処する

  3. ライブ配信でコメントを書き込む際に、注意事項を表示させる機能がある場合は活用する(取り組み例:YouTube

  4. 誹謗中傷対策に取り組む専門チームが活動し、その結果を世間に発信することで、誹謗中傷にきちんと対処していることを認識してもらい、抑止につなげる

また、「誹謗中傷行為等に対するANYCOLOR株式会社及びカバー株式会社による連携体制の構築について」という声明は、クリエイター、ファン双方から支持を受け、広く拡散されたことで誹謗中傷を抑止する効果が生じたそうです。そのほかにも、クリエイターには、誹謗中傷を受けにくくするためのコツなどを、具体的な事例を用いるなどして伝えているとのお話がありました。

クリエイターとしての対策

佐々木あさひさんからは、掲示板に書かれた誹謗中傷を目にした結果、心が折れてしまったクリエイターを何人もみてきました。そのため、メインのプラットフォーム以外の投稿についてはみないという対策をとられているというお話がありました。

起こってしまった場合の対策ー事務所関係者

比較的軽いものはプラットフォームの通報機能を使って対応し、重たいものは裁判や警察への相談などもしているというお話がありました。

今後、どうなっていくと良いか

事務所からは、今後、誹謗中傷を減らしていくためには、以下のようなことが進むと良いとのお話がありました。

  1. クリエイターもリスナーも自由に発言できる状況は大事であり、あくまで誹謗中傷を減らすために様々な啓発活動をしていくべきである

  2. 無意識で誹謗中傷してしまう人には啓発が効果的なものの、明確な悪意をもっている人に対する対策というところも探求してほしい

  3. スピード感を持って対応しても、ログがないという結果になるケースもあり、ログの保存期間についてもケアしてほしい

  4. 誹謗中傷について、警察が動いてくれると、より抑止効果が得られる

  5. 誹謗中傷に向き合ってくれるプラットフォームが増えている一方で、プラットフォームや掲示板によっては、最低限の対策がなされていないケースもあり、そうしたところの底上げはしてほしい

佐々木あさひさんからは、一般の方でも炎上することがあるが、そうした時に頼れるところを見つけることが難しく、国や行政のサポートのもと、心理カウンセリングなどの心のケアに繋がることができるとよいというお話がありました。

講演:より安全なコミュニティ作りに向けた YouTubeの取り組み

仲條亮子 グーグル合同会社 YouTube日本代表

“表現する場所をあらゆる人に提供する”ことをミッションとするYouTubeは、表現の自由が守られる「開かれた場であること」と「コミュニティを守る責任」 、この二つのバランスを重視しているとのお話がありました。

その上で、より安全なコミュニティを作るための取り組みとして、
①法律やポリシーに基づいて違反する情報を削除すること
②安全なコミュニケーションを実現するためのツールを開発すること
③視聴者や投稿者に働きかけ、情報に対するリテラシーを高めること
が紹介されました。

まず、①法律やポリシーに基づいて違反する情報を削除することについては、法律だけでなくYouTube独自に設けられたコミュニティガイドラインに則っておこなわれていること、違反コンテンツの検出は人間による審査と機械学習を組み合わせることで、直近では74%が再生回数10回以下のうちに削除されていることなどについてお話がありました。時には迅速性だけではなく、慎重さ、公平性、多角的視点も持ちながら、数日から数週間かけ、専門家も交えながら、削除の判断をしているといったプラットフォーム事業者の実情にも触れられていました。

次に、②安全なコミュニケーションを実現するためのツール開発については、クリエイターが自身の運営されるチャンネルにとって望ましいと思う会話のトーンを知らせることができるチャンネルガイドラインや、コメントに表示したくない単語やフレーズをブロックする単語のリストに事前に登録をしておくといった機能の紹介があり、今後も安全なコミュニケーションを実現していくため、機能開発を続けていくとのお話がありました。

また、③視聴者や投稿者に働きかけ、情報に対するリテラシーを高めるための取り組みとして、今年YouTube上で実施されたキャンペーン「#ちょっとまって ⏸️ 投稿前に、想像してみよう。」が紹介されました。若者層に人気のある8組の多様なクリエイターに、若者層に向けて、「どういう発言・コメントがインターネット上での嫌がらせやいじめになりうるか」「そのような投稿や拡散を防ぐために一人一人に何ができるのか」というメッセージを伝えるショート動画を作成してもらい、広く視聴いただいたとのお話がありました。

最後に、プラットフォーム事業者の立場としても誹謗中傷対策は重要である一方、疑わしいコンテンツは即刻すべて削除するという極端なアプローチをとってしまうと、言論の自由を萎縮させるリスクも伴うとのお話がありました。そうしたリスクを踏まえつつ、専門家とともに、常に進化していく対策を追い求めていくことや、産官学民でプラットフォームをこえて、継続的に議論することが重要であるとのお話がされました。

パネルディスカッション【業界横断ディスカッション】:産官民学横断で誹謗中傷を減らすための取り組みについて考える

ファシリテーター 宍戸常寿 東京大学教授
国光あやの 衆議院議員
朝比奈ひかり Z世代マーケティング企業 株式会社seamint.代表取締役 
浅井健人 一般社団法人クリエイターエコノミー協会事務局長
吉田奨 一般社団法人セーファーインターネット協会専務理事

法改正の動きと各省の連携の必要性

国光あやの議員は、誹謗中傷対策をライフワークとされてきた立場から、ここ数年で侮辱罪の厳罰化がすすみ、検挙件数が3倍近くに増え、プロバイダ責任制限法の改正によって情報開示件数が5倍以上となり、期間も数ヶ月で開示されるケースも増えてきたと具体例をあげて紹介。また、現在、プラットフォーム事業者に誹謗中傷対策を求める法律の制定も視野に入れて議論が進んでいるものの、実際の運用にあたって、どれくらいの粒度での対応を求めるかは各ステークホルダーが合意できることが今後必要であることや、総務省だけでなく、法務省人権擁護局での削除の取り組み、文科省での教育、厚労省での心のケア、警察など、縦割りを超えた総合的な取り組みが必要となり、議員としても、そうした点を総合的に進めていきたいとのお話がありました。また、既に様々な広報活動は進めており、プロバイダ責任制限法の認知度は大きくあがったが、相談窓口の認知度などはまだ低く、困っている人に届くように情報発信していってほしいと、その必要性を訴えました。

インターネット上の書き込みなどに関する相談・通報窓口のご案内
出典:総務省HP

誹謗中傷に関する教育とSNSでのPR

朝比奈ひかりさんからは、意図せずに自分の投稿がバズった際に、誹謗中傷をされるリスクがあり、穿った見方をされないように、先回りしてコメントをして自衛をされているとご自身の対策を紹介。今後は、誹謗中傷をする側の意識を変えていくためにSNSの使い方などを教育に入れていく必要があると述べ、SNSでの啓発活動がより多くの人の目に触れて効果的であるとお話がありました。

プラットフォーム事業者による自主施策の重要性と警察による救済の必要性

吉田奨さんからは、①法律で一律に対応する前に、プラットフォーム事業者が、ユーザーや社会への責任として、自社にあった対策を進めていくと同時に、透明性もあげていくことが重要であること、②一定レベル以上のケースについては、刑事手続をとり、捜査機関が動くことによって、と、迅速な救済につながること、③正当な批判は必要なものでありつつも、やり方を誤って誹謗中傷に至っているものもあり、正当な批判の事例集もあった方がよいとお話がありました。

啓発活動や表現の幅の重要性

事務局長の淺井健人からは、事後の対策も重要であるが、クリエイターが誹謗中傷にあうことを減らすためには事前の啓発活動も重要であり、「#ちょっとまって ⏸️ 投稿前に、想像してみよう。」のように、影響力のあるクリエイターを起用するなどして、誹謗中傷を悪意なくしてしまう層に刺さるような啓発をして欲しいとの話がありました。また、日本のコンテンツが充実しているのは、表現の自由を尊重して表現の幅を広く許容してきたことも背景にあることから、クリエイターも自ら発信し、ファンも発信してクリエイターをサポートしていく中で、なんでも消して欲しいというものではなく、あくまでも誹謗中傷について対策してほしいと述べました。最後には、コンテンツや空気感など、様々な特徴のプラットフォームがある中で、それぞれのプラットフォームに適した対策をそれぞれのプラットフォーム事業者が裁量をもって、創意工夫をもっておこなっていけることが重要であり、そのためにも、エビデンスベースで、誹謗中傷の実態を踏まえて、事前・事後の対策が継続的に図られていくことが望ましいと説明しました。

閉会の挨拶

最後に、小森総務大臣政務官及び、一般社団法人クリエイターエコノミー協会代表理事の梅景から閉会の挨拶があり、本日の議論を踏まえ、引き続き、産官学民で、誹謗中傷を減らすという同じ方向に向かって、この問題に取り組んでいきたいという締めの言葉がありました。

この記事が参加している募集

イベントレポ

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!